スクープ特別号

驚愕！あの冷酷無比の鬼将軍に恋人が!?
側近が語る真実の素顔!!

聚慎の冷血将軍とも言われるＭ将軍に恋人がいるとの情報をキャッチした我々は“決死”の取材の結果、
一人の協力者に話を聞くことが出来た。以下はその貴重なインタビューである。
花郎部隊所属 Ｗさん
「今回協力するのは聚慎軍内での彼のイメージアップを図るためであって、
つまらないゴシップのネタ等の為ではありませんので、そのつもりでお願いします」


「はい、それはある夏の夕暮れ近くの事でした。
　私は陛下にことづてを頼まれて、将軍を探しておりました。
　城の庭園を見回っていると楠の大木の陰に彼らしき姿が見えたので駆け寄りながら声をかけたんです。
　声をかけてみて初めて気が付いたんですが…そばにもう一人女性がいて…その……をされてて…」


「で、ですから…キスをされてて……」


「キスをしてたんですってば！あ、声、大きすぎましたか。失礼。」


「いえ、驚いたというよりも…その、ショックでした。
　え、なぜかって？それは…ええと、その、そう、
　もともと私は剣の修行ばかりに明け暮れている無骨者ですので、
　そういったものを見慣れていなかったというのもありますし、
　なにより、彼は雲のようにつかみ所がなく自由な方だと、
　誰かに固執するような、人間的な感情に囚われる方ではないと思っていたので…
　まぁ、思い込みに過ぎないんでしょうけど、そういった将軍を尊敬しておりましたので、
　そうではなかった、彼もまた私たちと同じ人間らしい方であった、という事実に
　軽いショックを受けたというか」


「その時は、将軍は私に見られたにもかかわらず、平然とした様子で『すぐに行く』とだけ返事をされて、
　そこはそれで終わったんですが。
　しばらくして、私が夕食前の部隊での修練に勤めていると、将軍がいらっしゃって
　『ちょっと顔を貸せ』とおっしゃるので、修練を他の者に任せて、
　私は将軍に誘われるままに酒場へ行きました。
　奧の席につき、あたりを見回した後すぐに将軍は『今日のこと、誰かに話したか？』とお尋ねになりました。
　私が顔を横に振ると『絶対に誰にも口外するなよ』ときつく私に言い渡しました。
　非常に差し出がましいことですが、別に隠す必要は無いのでは、と私が言うと将軍は、
　 　『俺のような奴が女に恋しているなんて、柄にもねぇだろ。
　　人でなしとか、冷酷無比とか影で言われてるのは知ってるし、
　　それが俺の本質なのは事実だ。実際、軍隊ってのは人徳だけでやっていけるもんじゃない。
　　だいたい上の人間が恋愛なんて軟派な事にうつつを抜かしてるのが知れてみろ、
　　部下達に示しがつかないだろう』と。
　私はそんなことはないと言ったのですが、彼は笑うばかりで…。


「それ以降ですか。ええと、いろいろお話を聞きました。
　将軍は酔うと饒舌になられるタチらしくて…ええ、要するにおのろけですね。
　おかげでこの国で一番、将軍の、かの女性に対する思いについて知ってる自信はありますよ。（苦笑）
　雲の上の存在であるはずの将軍の秘密を知り、より将軍を理解できたうれしさはありましたが、
　やはり、ショックの方が大きいですね……ふぅ」


「は？私が将軍に対して何か特別な感情、例えば恋愛感情を抱いているのではないかですって？
　だっ誰がそんな破廉恥な事を！!
　私はただ純粋に、将軍を敬愛しているだけであってそんなヨコシマな感情など……！
　……ともかく、以上で私の話は終わりです。
　彼は決して人でなしでも冷酷でもない、感情豊かな、人間的な方なんです。
　どうか、そこを強調して下さい。
　本当は、我が軍の士気に関わるからと将軍から口止めされているのです。
　くれぐれも私の名前は伏せておいて下さい。
　あ、それと私の友人のような、頭と口の軽い奴らに、この話をするのも避けて頂けますか？
　きっとろくな事にならないと思うので。
　もし万が一洩れる事があれば……
　訳も分からず切り刻まれる恐怖を味わう事になるかもしれませんのでくれぐれもご用心願います。」

続いてＭ将軍を知る数名にこの事実について確認してみたところ…

白虎隊所属　Ｕさん
「はー、あんな顔してやるこたやってんだなー。あん、別に興味ねぇよ、あの人のことなんか。
　それより相手の女が気になるな。美人？」

テコンダー　Ｙさん
「え、嘘だろ！だってあの血も涙もないような人が？
　大体、将軍のことなら何でも聞け！な、熱烈将軍ファンのおれの親友からそんな話聞いてないし。
　きっとガセだよガセ。でも、ま、一応あいつに確認しとくかな」

元悪獣の魔法使い　Ｗさん
「…元悪獣ってなんですか。非常に気にしているのに。
　もし編集後もそのままだったら精気吸いますよ。（悲鳴と何かが倒れる音がする）
　……あ、そうそう、将軍のことですね。彼は良い方ですよ。妖怪の私をも平等に扱って下さいますし。
　もし本当なら、ほほえましいことですね。…おや、こんなところで寝てると風邪引きますよ」

仙比　Ａさん
「へぇ〜そうなんですかぁ。それは初耳でしたねぇ。彼のような方が……ふぅん。
　素敵なお話を聞かせて頂いてありがとうございます。」…にやり。

Ａさんの最後の微笑がなぜか気になったが、以上が今回の取材の結果であった。
「鬼のかく乱」という言葉があるが、恋の病にはさすがにあの無敗将軍も敵わなかったようだ。
げに恐ろしき熱病といった所か。
それにしても、今回の取材は前述の通り“決死”のものであり、あまりにも犠牲が多かったように思う。
発表前から反応が凄まじく、我がタイムス記者のうち、
「見えない刃が…」とダイイングメッセージを残した者、
かろうじて生きているものの、取材中にミイラ同然になってしまった者、
そして果敢にも本人へのインタビューを試みながら Ｍ将軍の刃に倒れた者が数名。
このままでは私の生命までが危機にさらされかねず、 せっかくのこのスクープも永遠に封印せざるを得ない。
それよりも早く国外逃亡の準備をせねば。
さもなくば……。


おわり（040229)

蛇足
なぜ文秀が元述に「おまえなら分かるはず、俺と彼女との関係…」といったか、 というところから。
はじめは元述の独白だけのものを考えていたが、腐れ度と元述不幸度がひどくなる一方だったので、 却下。

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