| 嫉妬 ８巻117頁より |
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文秀将軍は意味のない寄り道をしようとしている。 早く、彼を阿志泰のもとへ連れていかねばならないというのに。 しかも、死んだはずの昔の恋人「桂月香」の名を聞いて、だ。 俺は今、自分が非常に苛ついているのを自覚している。 …桂月香への嫉妬？ 違う！ あんなはした金を死人から取り上げようとし、 英實の与えた武器や防具ばかりに頼りきって、見るも情けない姿をさらしているばかりか、 昔の女ごときの名前が出ただけで宿敵阿志泰の事をおいて回り道をしようとする、 そんな女々しい将軍と、聚慎在りし頃の堂々たる将軍との、 目を覆いたくなるような落差に苛ついているだけだ。 彼は説得しようとしてか、俺に近づく。 「俺は行くしかないんだ。溶路の地でお前らがそうだったように。これもまた言うなれば俺が元凶……」 突然、将軍は俺の左手をとり、あろうことかその手を彼の胸へ導くではないか。 ドクン…ドクン…ドクン。やけに早い心臓の鼓動を感じる。 だが、それは将軍の心臓の鼓動なのか、それとも死人であるはずの俺のそれなのか。 まさか、将軍がわざわざ俺の手をとって、しかも自分の体を触れさせるなんて！ 俺は自分の顔の筋肉が驚きの表情を形作るのを必死に押さえるのが精一杯だった。 「鼓動が激しいのがわかるだろう」 彼は俺の手を胸にやったまま、俺の目を見つめて言う。 俺もまた彼の目を見る。 俺の冷たい手のひらに将軍の体の温かさがじわじわと伝わってきて、 それが凍りついていた彼への思いを溶かし、再び心にその思いがわき上がってくる。 将軍、俺は、貴方を誰よりも……。 そしてぽつりと彼は言葉を続けた。 「…桂月香のせいさ」 ぶつっと何かがブチ切れる音を聞いた気がする。 一気に今までの淡い感情が霧散し、代わりに先程とは全く違う強い感情が俺を支配する。 「元述、お前ならわかるはず。俺と彼女との関係………」 ……ああ、いやって程わかってますとも。 「今回のことはできるだけ慎重に片付けたい。わかってくれ、元述」 わかってくれ、ですって……ふ、ふふふふふ。 そうですね、あなたの言う通り、取り敢えずはこの寄り道につき合って差し上げましょう。 桂月香がもし本物であれば、この剣にかけて必ず、この俺自らが冥土に送り返してやる！！ (040420) |
| 蛇足 ＧＸを読んだ瞬間に思い付いたネタ。 ところで実際、元述の心臓って動いてるんだろか？ |