類友

ユグドラシル船内にて。 道の角の影に立ちつくして何か向こうを見ているシタンを見つけるシグルド。
「ヒュウガ、どうした、ボーっとして…って、ああ。」
シタンの視線の延長上には自己鍛錬にいそしむフェイの姿。
「相変わらずだな。お前には奥さんも子供もいるってのに。」
「心密かに思うのは自由じゃないですか」ため息とともに声を吐き出すシタン。
「…まぁ、お前が良ければそれでいいんだろうが。それにしても」フェイの方へ体を向きなおし一言。
「あんな筋肉バカのどこがいいんだか。」
その言葉を聞いてすぅっと目を細めるシタン。
「筋肉バカ、ですか。私には若くんの方がよっぽどソレだと思いますが。」
「どこがだ。」それを問う目は液体酸素よりも青く、その声は液体窒素よりも冷たい。
「どこがだ、って、あなたの目は節穴ですか。単純に私と若くんを比べてご覧なさい。自明の理というものでしょう。」
シタンは淡々としながら返答する、が。
「なぜ、比較対象がフェイ君ではなくお前なんだ！お前は単にやせぎすなだけだろうが！」
微妙な論点のすり替えに気づき、納得できないとばかりにシグルドが声を荒げる。
「だいたい、筋肉バカだなんて、まるで知性のないような表現を私のフェイに使わないで頂けませんか。」
「私のフェイ、とまで言うか。って、その『知性のないような表現』を若になら使ってイイと言うわけだな、お前は。」
怒りを理性でもって押し殺そうと努力するシグルドだが、
「使っちゃいけないんですか。」冷静なシタンのツッコミに胸を突かれる。
「う。確かに少々思慮に欠けるというか、考える前に行動してしまうタイプというか、いやしかし、もっと年を取って落ち着いてくれれば或いは……」
思わず数秒自分で自分にフォローする。
しかし、今そんなことをやっている場合ではないと気づき反論の言葉を探しなおす。
「そ、それは置いておいて、だ。ヒュウガ、『類は友を呼ぶ』という言葉がある。」
「知っておりますが、それがなにか。」
「確かに若にはいわゆる思慮深いとは言えない部分も確かに少しはあるかもしれない、だがしかしだ。冷静に、そう、客観的に考えて、フェイ君にもまたそのような傾向がないとは言い切れないだろう。だからこそ、彼らは仲の良い友人としての関係を保つことが」
「それぐらい理解しております。フェイがあれで聡明だったりしたら私の出る幕がないじゃないですか。」
シグルドの言葉を遮って言葉を返す。
「……わかってるんじゃないか！」
「だからといって、第三者に愛する人を冒涜するような言葉を投げつけられて、はいそうですね、と素直に答えてられますか！」
珍しく逆ギレを起こすシタン。もとい、「筋肉バカ」のあたりから既に怒りに我を忘れていたようだ。
声のトーンがいつもより３度ばかり低い。


一方。
「お、精がでるな」通りかがりのバルト、フェイを見つけて駆け寄って声をかける。
「ああ、バルト。持続は力なりってね。」汗をタオルで拭いながら答えるフェイ。
バルトは飲みかけの飲料をフェイに渡しながら、
「ところで、あそこでえらく白熱してるの、気付いてるか？」と親指でシタンとシグルドのいる方向を指す。
「ああ、先生とシグルドさんね。ソラリス語で、何言ってるかいまいちよくわからないけど、先生の事だから、これからの方針とか、作戦の善し悪しをシグルドさんと議論してるんだよ、きっと。」と、何の根拠のない自信をもって答える。
「気のせいかケンカしてるようにオレには見えるんだけど……そうだよな、うちのシグも口うるせえとこあるけど、基本的にはおだやかなヤツだし。」フェイの答えにあっさりと納得するバルト。
「大体、先生やシグルドさんみたいな大人がケンカなんかするはずないじゃないか。」
「確かに。三十路まであと一息の年寄りがケンカなんてなぁ。」
一瞬向こうの二人の言い合いがぴたりと止まる。どうやらこちらの会話を聞いていたようだ。
フェイとバルトはそれに気がつかずに話を続ける。
「ああやって妥協無く何でも言い合える、そういうのを親友っていうんだろうな。いいよな。」
「二人とも頭が良くて真面目で落ち着いてて、タイプが似てるからかな。あ、そういえば、こういうの、なんて言うんだっけ。」
「ええと、たしか……」考え込む二人。しばらくして。
「『類は友を呼ぶ』！！」と同時に声をあげる。


シタンとシグルドは無言で互いの顔を見る。
「よりによってコイツなんぞと似ているなどと言われるとは」と、片方は心外だと言いたげな顔になり、片方は苦虫をかみつぶしたような表情が浮かぶ。
そして。
「貴方と私が親友だそうですよ。あなたの御主君の観察眼は本当に素晴らしいものですね。」
「お前とオレがケンカではなく議論中だとは知らなかった。フェイ君の目こそ節穴ではないのか。」
と、再び千年戦争の如く、いい大人二人のケンカは続くのであった。

ＥＮＤ

20020506

前頁へ戻る
ゼノコーナーへ戻る