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◆便利な世の中になったもので。 オオガラスに魔法使いヲンヒョが殺される。 「くそ、あんな雑魚ごときに…」 例の呼吸困難は起こさないものの、力、素早さ、体力等、 普段の力が全く出せない事に苛立つ文秀。 「しょうがありませんよ、私たちはまだ『レベルが低い』のですし」 元述は文秀のフォローでボロボロであるのをおくびにも出さず、 魔物の体液の付いた刃を布で拭きながら文秀をなだめる。 「経験を積んでいけばきっともっと動けるようになりますよ」 「と、いうか、自分の現在の能力を把握せず、 装備も十分でないのに、ろくに休みも取らずに戦い続けるものだから…」 魔物達の死亡を確かめながら、阿志泰は至極冷静に分析する。 図星で何も言えない文秀。 人間、自分でも分かりきっている事を他人に指摘されると非常に腹が立つもので。 機会あらばこの手で必ずこいつを！という思いを紛らわせようと言葉を発する。 「それにしても、よりによって人間よりずっと体力のあるはずの元暁が 真っ先にくたばるとはな」 元暁は出血多量の為か、ただでさえ白い肌を真っ白にさせて地面に倒れている。 「正義の使者たる勇者のメンバーが精気を吸うのは御法度だからと言って 精気断ちしているようで、まぁそれによる影響でしょうね」 「ははは、正義と来たか……勇者なんざくそったれだ」 阿志泰の言葉を聞いて、正義という曖昧でくだらない名誉の為よりも、 卑怯といわれようが実利を尊ぶ傾向のある文秀は天を仰ぐ。 「元暁の回復の為に街の教会へ戻りますか」 元暁を抱え起こしながら元述は文秀の顔色をうかがうが。 「その必要はありませんよ。…ザオリク」 たった一言阿志泰が呪文をつぶやくと、 あっという間に溶ける様にして元暁の体中の傷が治り、更に血色までが戻っていく。 ザオリクとは僧侶の使える魔法の中でも最高レベルのものの一つで、 うすれゆく意識を回復させ、 更に身体を怪我一つない完全な状態にするもので、 かなりの経験を積まねば会得できない呪文である。 「どういうことだ！？」 条件は自分と同じはずなのに、なぜ阿志泰だけがそんな高等呪文を！？ 文秀は阿志泰の襟元を両手でつかんで詰め寄る。 阿志泰は落ち着いたもので、のんびり淡々と言葉を返す。 「ああ、『あんぐら』とかいう世界の『つーる』とかいう道具を使えば簡単ですよ」 その言葉を聞いて脱力する文秀。 「また訳の分からない異世界の話かよ。そんな怪しいもの使うな」 「えー、便利なんですけどね。初めからレベル９９ですよ」 「却下。『学問に王道なし』、卑怯な手で楽に利益を得ることなど それこそ正義の使者たる者のすべきことではない！ それに、きっと何か穴があるに決まっている」 続いて生来真面目な元述が阿志泰に食って掛かる。 「う〜ん、では、珍しいアイテムが無限増殖する裏技とか」 「天の摂理に反するような事を！！大体貴様はいつも……！」 「どうかしましたか、将軍」 阿志泰と元述、二人の対立というか、一方的な口喧嘩 （そして永遠に平行線、もしくは元述の理屈負け）が繰り広げられるその横で、 ようやく意識が回復した元暁がいつのまにか何やら考え事をしている文秀に声をかける。 「ん、あ、いや、なんでもない」 初めから最高レベル……世界で一つしかないようなレアアイテムを沢山増やせる…… 阿志泰の言葉でなければその誘惑に負けそうになっていた文秀だった。 蛇足：アイテム増殖の裏技はバグるらしいので注意が必要。 (040624) |